「おい。早くせんと遅れるぞ!」
「ちょっと待ってって。男と違って女は化粧があるのー」
洗面所から返事が返ってきた。
化粧をするなんて、高校生のアイツからは考えられなかった。まぁ、女というのはだいたいそんなもんだろ。
「出来た!」
「早く車に乗れよー」
先に運転席で待っていると、後から助手席に乗り込んでくる。
車を走らせて着いたのは結婚式場だった。
「遅かったわね。石見」
「聞いてくださいよ、部長。こいつ俺が迎えに行ったら、まだ化粧してなかったんですよ。ルーズ過ぎる」
「アンタが来るの早過ぎたの!」
「あら、高津。久しぶりね」
「領家さん!お久しぶりです」
式場に入るなり、部長と話が始まった。
「部長。俺にはお久しぶりは無しですか?」
「あなたには展覧会でよく会うから久しぶりって感じがしないのよ」
「それは俺の字です」
何年経っても、部長は部長だ。当たり前のことだが。
「それは君の字に魂が入っているからじゃないのかな」
そんなクサイ台詞を吐いたのは、純白のタキシードに身を包んだ男。村上先生だった。
その隣には同じく純白の花嫁衣裳を着ている鈴木先輩がいる。
「この度は四年前の約束通り、招待してくださってありがとうございます」
うやうやしく頭を下げる。
「何?高津。四年前って!」
「部長。それは後で二人から聞いてください」
「それにしても四年はちょっと遅かったんじゃないですか?二人なら先輩が卒業してすぐにでも式を挙げそうだったのに」
そう言うと、先生が少し不貞腐れた。
「俺たちにだっていろいろとあったんだよ」
「先生が他の女の人に目移りしていたとかねー」
横目で見る。
「だーかーら!それは誤解だって!!」
・・・うん。いろいろあったようだな。
それでも今、こうやって式を挙げているんだ。
終わりよければ全て良しってな。
ところで高津。と、先生。
「本。読んだぞ」
「本当ですか!」
嬉しそうに声を上げる。
「あぁ。なかなか面白いぞ。俺のクラスにも何人かファンがいた」
「ファンってなんだか、くすぐったい響きですね」
確かに。
先生は俺たちを交互に見た。
「石見も高津も自分の夢を叶えたな。次は結婚か?」
そう言われると俺たちは顔を見合わせて、くすっと笑った。
「それはいつでも出来ますからね」
ほう。と、面白そうに先生が返事をした。
「じゃあ他の目標でも出来たのか?」
はい。と、揃えて返事をする。
「千沙が書いた原作がドラマ化したら、その題字を俺が書くんです」
部長がそれは、それは。と言う。
「アンタ等ならすぐにでも叶いそうね」