「笑える演技ありがとうございました。次は書道部による書道パフォーマンスです」
大河の曲盛大に流れ出した。
照明が点き、大きく白い紙が吊り下げられているのが見える。後ろからの照明で、その紙から五人の人影が浮かび上がった。
「せーのっ!」
その掛け声に続いて、黒くて大きな丸が現れる。
二度目の掛け声と共に、その丸の中が蹴破られた。
次々と出てくる甚平姿の五人組から分かれた部長と副部長で、板に張られた半切あっという間に「津和乃高校」と書き上げる。
すると今度は滑らかな音楽が流れてきた。校歌だ。
半紙の前に立ったのは俺と田辺先輩に三島先輩。
スッと筆を持ち上げると、一瞬の溜め。次の瞬間、勢いよく半紙に筆を走らせた。
『万化の花と夢咲きて かすみも匂うあけぼのを 憧れわかき命もて 誰が周の学を継ぎ 新た世代を歩まなむ』
音楽が小さくなるのと共に拍手が聞こえてくる。
その音にまぎれて一呼吸。
よし。
五人でくるりと前を向く。
「さんはいっ!」
曲の雰囲気が変わった。
THE BULUE HEARTSの終わらない歌。である。
曲の盛り上がりに周りから歓声があがる。
副部長が一文目を書き始めた。
次に田辺さん。
三島さん。
部長。
そして俺。

終わらない歌を歌おう。
クソったれの世界のため。
終わらない歌を歌おう。
全てのクズ共のために。
終わらない歌を歌おう。
僕や君や彼らのため。
終わらない歌を歌おう。
明日には笑えるように。

手拍子が聞こえる。

あいつに夢を尋ねると、昨日の夜に見た夢を語る。
あの子に雨が降ったことを伝えると、電車が止まることを祈る。
君が居眠りから覚めると、今日の分は明日頑張ると決める事を明日も決める。
面倒くさいこんな人生。
面倒くさいこれが人生。

一体、この曲からどうしてこんな捻くれた詩が生まれるのか。
俺には到底理解できないが、アイツらしいっちゃアイツらしい。
そう思えるのもこの曲に合わせているお陰なのだろう。
怠慢な日々を楽しんでいるようだ。

図書館のソファーで退屈そうに本を読んでいる高津の顔が思い浮かんだ。
なんだか笑える。
俺は部室にあった中で一番大きい筆で、「人生」と書いた。