練習に入った。
「トリ以外にも書いてもらうところはあるからそっちの練習もよろしくね」
指定された字を半紙に書いてみる。
とりあえずそれっぽい感じには書けた。
「石見は半紙つなげてデカイの書いてみて」
「はい」
黒板分の大きさはある半紙。
失敗は許されない。
「書けるか?」
ボソッと呟いた。
いや。その為に練習するんだ。
墨を入れたバケツに筆を入れ、含ませた墨を白い半紙に持っていった。

「書けない」
墨で塗りつぶす。
「書けない」
半紙をぐちゃぐちゃにする。
「書けない!」
放り出して寝転んだ。
天井にシミを見つけた。
「あー書けない!」
最初の練習に入ってから一週間が過ぎようとしていた。
それなのに一回も満足のいく字かけていない。
挫けそうだ。
「お。朝連か?」
顧問の村上が入ってきた。
「おー半紙の無駄遣いしてんなー」
「・・・もっと慰めてくれるとかないんですか?」
「おお。すまん、すまん。」
半紙の前まで来ると、腕を組んで字を眺める。
そして、俺を見た。
「これじゃあ満足できんよな」
頷いて返事をする。
「ギリギリまで終わらないぜ。的な感じで書いてほしいんだがな」
空に字をなぞってみせる。
「これ、部長が書かないんですかね?」
「駄目だな。領家は最後に目立つのは苦手だそうだ」
「田辺先輩とか三島さんは・・・」
「あいつらは草書とか行書のほうが向いてる。・・・領家はちゃんと皆の得意なところを割り当ててくれたと思うぞ」
曖昧な返事で返す俺に、村上はため息をひとついて立ち上がった。
「まあ。俺に言わせれば、今のお前には書く気が無いとしか言えないがな」
その言葉に慌てて起き上がった。
そんなわけが無い!
村上に目を合わせると、彼は肩をすくめた。
「俺に言わせればの話だけどな」
授業には間に合えよ。と言って、部室を出て行った。