「ま。とりあえず、そのときの衣装として入野の家から甚平注文しといたから来週までに二千五百円持ってきといてね」
ゲシュタルト崩壊の波から逃げるとこが出来たらしい。
入野という人は副部長のことで、家が老舗の呉服屋である。
「甚平は着やすいし、練習でも着れるから丁度いいと思う」
入野先輩が何気に宣伝してきた。

「そうそう。甚平はいいよー。で、書く字なんだけど。とりあえず情熱大陸でも引用しようと思うのね。それでこれが完成予定図」
ホワイトボードに張った予定図にマークを入れていく。
「ここが私。これが入野。これが田辺で、ここは三島。んで、これを石見にやってもらうわ」
「はい。・・・え?」
見間違いだろうか?部長が書くところと被って見えるのだろうか。いや、そうしたら他に書くところが無い。
「あの。俺は照明係とかですか?」
「はぁ?今言ったじゃない。ここよ。ここ!」
ああ。やっぱり。
部長が指しているのは終わらない歌という字。一番デカイ字。トリだ。トリ。
「なんで俺なんですか?」
「だってあんたが一番豪快に書くからね」
「部長や副部長のほうが上手いじゃないですか」
「入野は体力が無いから駄目よ。それに、そこより難しい字がそこかしこにあるからね」
確かに、形の取りにくい字がたくさんある。
「いい?ちゃんと練習しとくのよ」
肩を叩く部長の手が痛かった。