六時になる十分前。
図書館の戸が開かれた。

中に入ってきたのは男だった。男は真っ直ぐ奥の棚に向かったが、しばらくするとカウンターにやって来て、返却用や返却済み用の棚にある本を取り上げてみては「あれ?」と言いながら元の位置に戻していた。

「お求めの本ならここですよ」
声のするほうへ目を向けると、そこにはソファーに座ったまま本持っている女子生徒。
「高津じゃないか。もうちょっとで図書室閉めるぞ」
「設備が変わったから図書館って言うそうですよ。村上先生」
「ああ。そうだったな。どこがどう変わったかいまいち分からん」
「私もです」
村上という男は軽く笑う。
ところで。と、本を指差した。
「なんでそれを持っているんだ?」
「先生にお渡ししようと思ったんですよ」
そう言うと、本を村上に渡した。
「本には帯出者の名前のところに日付があったから誰が借りたのか分からなかったけど、個人用のカードで同じ日付の判子が押してあるのを見つけたらあとは簡単ですからね」
「個人用のカードを見るのはプライバシーに関わるから駄目だって言われなかったか?」
「先生が黙ってくれれば問題ありませんよ」
そう言いながら笑顔を見せるのを不審に思ったのだろう。村上が軽く眉を寄せた。
「何が言いたい?」
「別に。脅したりとかじゃないですよ。ただ、ロマンチックって言いたかったんです」
「ロマンチック?」
「そうですよ。だって、その本にある長方形のへこんでるのって、手紙の跡ですよね?」
村上は何も返さない。

「相手は三年生の鈴木先輩ですね。よく図書館で見かけるのですぐに見当が付きました。二人はその本を介して手紙のやり取りをしていた。そのカードに日付が付いた去年の夏からずっと」

すると、村上は頭をかいた。
「このままバレないと思っていたんだがな」
「いつからなんですか?」
「そのカードに日付が付いた辺りからだよ。世間的にバレたら処分モンだからな」
「大変ですね」
「まぁな。・・・でも、あと半年だ」
微笑を向けた。
「言うか?」
それを笑顔で返す。
「まさか。これからは隠ぺい工作のお手伝いでもしますよ。実は私、図書委員なんです」
「はは。こりゃいい味方が付いたもんだ」
村上はポケットから手紙を取り出すと、それを本の中に挟んだ。
「じゃあ、これ頼んでいいか?」
「ラジャー」