「ークッ」
今、少しセイさんが笑った様な…。
「…餓鬼、コイツの名前知ってるか…?」
そういえば、ヒロくんに名前を言った事が無い。
始めて名乗ったのはセイさんだったから。
ヒロくんは何も答えずにセイさんから顔を逸らし俯いた。
「勝負ア……」
勝負アリ。
そう言おうとしたセイさんを遮ったのは、
「うえぇぇえん。このおじちゃんが虐めるぅ〜!!お姉ちゃん怖いよぉ〜!!」
と、私の胸元に顔を埋めて泣き付いた。
「…あぁ?」
私は泣き付くヒロくんをほっとく事は出来ず、トントンと背中を優しく叩きあやした。
「大丈夫です…セイさんは怖い方では無いですからね。」
「お姉ちゃん、今日も一緒に寝てくれる?」
「…えっ?あ、勿論です。」
あっかんべ。
また、ヒロくんがセイさんに向かってした事を私が知る事は無かった。
「大人になったら覚えてろよ。」
セイさんが悔しそうにそう、言った事も。



