お前に全て、奪われた。 Ⅰ




「ークッ」



今、少しセイさんが笑った様な…。



「…餓鬼、コイツの名前知ってるか…?」



そういえば、ヒロくんに名前を言った事が無い。

始めて名乗ったのはセイさんだったから。

ヒロくんは何も答えずにセイさんから顔を逸らし俯いた。



「勝負ア……」


勝負アリ。


そう言おうとしたセイさんを遮ったのは、



「うえぇぇえん。このおじちゃんが虐めるぅ〜!!お姉ちゃん怖いよぉ〜!!」



と、私の胸元に顔を埋めて泣き付いた。



「…あぁ?」



私は泣き付くヒロくんをほっとく事は出来ず、トントンと背中を優しく叩きあやした。



「大丈夫です…セイさんは怖い方では無いですからね。」


「お姉ちゃん、今日も一緒に寝てくれる?」


「…えっ?あ、勿論です。」



あっかんべ。


また、ヒロくんがセイさんに向かってした事を私が知る事は無かった。




「大人になったら覚えてろよ。」



セイさんが悔しそうにそう、言った事も。