世の中には、言っていい事と悪い事ってえのがある。
本当の事だからって、何でも言っていいって事にはなんねぇ。
正真正銘のブスに、本当だからって面と向かってブスって言えねぇだろ?
真実だからこそ、黙ってなきゃなんねぇって事ってのがある。
だから……
「剣菱の財政ってのは……どこの成金だかわかんねぇ奴と縁組しなくちゃなんねぇほど悪りいんだ?」
「……っ!!」
それが公然の事実でも、面と向かって言う奴なんかいねぇ。
“腐っても鯛”
ジジイが言ってたな……
“元来上等なもんはな、伊都。腐ってもその品格を失わねぇもんだ”
剣菱の世話んなった家は多いし、尊敬だってされてる。
ジジイだって、口では何言っててもどっか剣菱には甘いトコがある。
でも……
「……な、んのこと言ってるの?」
オレは許せねえ。
こいつらの……花美にしてる事だけは、絶対に許せねぇ。
――“剣菱の姫”に縁談話があがっとる。
そう、ジジイが言って、
それが、花美の事だと知った時……
その事実に驚いたのは当たり前だけど、それだけじゃあ…なくて、
無性に腹が立った
ひとりぼっちで、
寂しげに、笑ってる花美が目に浮かんで、
あいつの部屋を思い出す。
寂しさを埋めるように置かれた、
無数のぬいぐるみ
両親が事故に合った日のままのリビング
花美が、
死ぬほど辛かった時に、何もしなかった剣菱が、
ふざけんじゃねぇぞっ!!
無性に腹が立った……
「何で“剣菱”があいつを完全に一族から追い出さねえのか、言ってやろうか」
例え、剣菱から籍を抜かせようが、
母親の姓を名乗らせようが、それこそ、
“腐っても鯛”
現当主の孫娘、剣菱本家の直系中の直系。
そんな怖ぇ存在はねぇわな。
すべてを奪って、花美を剣菱から放り出した奴らからしたら……


