「霧里を返しなさいよ」
開口一番、不躾に言い放つ。
さすがというか、予想通り。
とことん上から目線の、可愛げのカケラもねぇオンナ。
無視して椅子に腰かけるオレを、
睨んでるんだろう、見なくても気配でわかった。
テーブルに肘をつき頬杖をつく。
脚を組みながら、視線だけを上げて成久を見た。
「……話すのは俺じゃなくて優華ちゃんだぜ?」
「このオンナの機嫌とれってのか?冗談じゃねぇよ」
睨み、唸ると、
成久は軽くため息をついて、無責任にも下の階へ戻って行く。
何考えてんだ、成久のヤツ。
ふたり、残されたところで、こいつと話すことなんかねぇっつの。
それどころか、同じ空間にもいたくねぇ。
「霧里はどこにいるの!」
「……」
「あの子を返しなさいって言ってるのよ!!」
「うるっせえなっ!!」
ガチャンッ!!
テーブルの足を蹴った。
その反動で中身をぶちまけながら、コーヒーカップが床に落ちて、無残に砕け散る。
立ち上がりざまに、
パキッ……
その破片を踏み潰す小さな音がフロアに響いた。
それほどの静寂。
「……」
「……」
オンナに怒鳴るのはコイツで二人目。
でも、その原因はどっちも、たった一人のオンナのためだ……
――花美……
「……今さらどのツラ下げて、剣菱がアイツを呼び戻すって?調子いいこと言ってんじゃねぇよ」
「佐々山が剣菱のやることに口挿もうっていうの?……ずいぶんとご立派じゃない」
「……」
まったく、花美がこいつと従妹なんて、到底思えねぇな。
剣菱優香を見据えたまま、
いつも、どこか自信のなさが見え隠れする、甘い花美の口調を思い出して、
愛しくて……
目の前のオンナに、怒りが込み上げてきた……


