「話がある。」



たった一言。

簡潔に言われて。


慎也に連れて来られたのは、テニスコートの裏。


コイツのテリトリー。


……何だ?


慎也のほうから話しかけて来るなんて…何年ぶり?

しかも、学校で。

わざわざ、俺の教室に来るなんて……


考えを巡らせながらも、答えは最初から出ていた。


きっと、くるみのことだ。



「あのさ、」



何を言われるんだろう?


もしかして、くるみが頼んだのかな?

自分じゃラチがあかないから、慎也から言ってほしい……とか?



こんなこと思いたくないけど……

くるみの気持ちを、信じたいけど……


今の俺は、そこまで“できた人間”にはなれない。


今この瞬間だって、この場から逃げ出したくて仕方ないんだから……



「お前さ、聞いてないの?」


ようやく口を開いた慎也。

普段から無口なコイツ。


今までの沈黙はわざとじゃない。



「何…を?」



くるみは慎也が好きだ、って?

2人はもうつき合ってる、って?

そんなこと……



「うちの兄貴、結婚すんだよ。」