「……前にね、小さな交通事故に遭ったの」

「え……」

翼くんは、目をまん丸にして、起き上がった。

「その時にね、右手首を……痛めちゃったの。小さな交通事故だった。右手首だって、私生活には問題ない。でも……絵を描くあたしにとっては、大怪我だったの」

まっすぐで、真剣な目で翼くんはあたしの話を聞いている。

あたしは、下を向きながら淡々と話した。


「右手首がいつものように動かない。描きたいように描けば、痛みがはしる。完成した絵は……あたしの絵じゃなかった。前の絵と比べたら、まるで別人が描いてるんじゃないかって、思われちゃうくらい」

「だから……ださなかったのか?」

「……うん。

あたしね、夢があったの。イラストレーターになるって……。でも、右手首がこんなんじゃ、そんな夢は叶えられないって知ったんだ」

「……諦めちまったのか、夢」

あたしは、ゆっくりと頷いた。


あの日から、何度も絵を描いた。

それでも、自分の絵にはならない。

絵を描く度に、



夢は実らないって、言われてるようで。