足音が、もうすぐそこになった瞬間、翼くんはスッとあたしから離れた。
「ごめん」
翼、くん……?
そう小さな声で言って、体育館を出る。
「すんません」
「ったく、早く帰れ。ん? おい、お前も早くでろ」
「は、はい……」
あたしは、ゆっくりと立ち上がって、体育館を出た。
心臓の音が、聞こえてしまうんじゃないかって、思った。
翼くん……翼くんは、
あたしのこと、どう思ってるの?
“委員長”って呼んだり、
“舞”って呼んだり。
距離を置かれたと思ったら、
急に唇が触れそうになるぐらいまで近づけたり。
わからない。
あたし、わかんないよ。
あたしは、翼くんの背中を見ながら、静かに涙を流した。