エゴイスト・マージ


「大丈夫ですか?これから
病院に行きますよ、ご自身の
お名前言えますか?」

ぐったりしている裄埜君に
救急隊員の人が話しかけていた。

「……裄埜、光です」

「ユキ アキラさんですね?
もう大丈夫ですよ。
すぐ病院にいきますからね」


担架で運ばれていく裄埜君に
私は駆け寄った。

「裄埜君、裄埜君!
ごめんなさい、ごめ……なさい」

「……雨音?
何で謝るの?君は悪くないのに。
俺は大丈夫、大丈夫だから」

こんな時ですら人を気遣う様子を
見せる裄埜君。

全然大丈夫じゃないじゃない。
顔や腕から血を流して
その証拠に目の焦点が定まらず、
私が何処にいるのかすら分かっていない
くせに。

「裄埜君のバカっ
……全然大丈夫じゃない、死んじゃうかと
思って怖かったのに……バカ……
裄埜君の……バカ」

安堵からか涙が止まらなくて
裄埜君の担架に縋り付いて
バカバカと連呼してしまった。

――バカは私なのに。


「ごめん、でも君が無事で良かった。
本当に……った」


「君は知り合い?救急車に一緒に乗って。
病院に行くよ。診察、君も受けて貰うから。
後、彼の親御さんの連絡先分かるかな?」

「友達です。お父さんがいます。
でも連絡先は分かりません」

「分かりました、取り敢えず
行きましょう」


隊員の人に促されて
救急車に同乗することになった。

車の中で裄埜君の事が心配だったけど
どんな状況だったのか?
何故、彼は線路に落ちたのか?

中で色々状況を聞かれ、
そして病院についてからも
警察、鉄道関係の人達から
色々事情聴取が行われて裄埜君の
病室にその日、行くことはできなかった。


後日改めて詳しく話を聞かせて下さいと
言われて漸くその日解放されたのは
23時を回った頃で、

「もうすぐ向こうの親御さんも
到着されるようなので、彼の所には
日を改めて行ってあげて下さい」

と、看護師さんから言われて
部屋の前には面会謝絶の札が
かけられてしまった。

それでも、最後に

「彼氏君は大丈夫だから貴方も
家に帰ってちゃんと休みなさい。
何かあったらちゃんと知らせてあげるから」

笑いながら言ってくれた
その一言で漸く病院を離れる決心がついた。

丁度お母さんが病院に迎えに来てくれて
家に漸く辿り着いたのはもうすぐ
日付が変わる頃だった。



翌日、学校でも大騒ぎになっていて
担任、教頭に事情を説明し、昼休みには
教師同伴のもと
警官も来て何度も同じ質問を受けていた。

「押された?本当に?相手はどんな人?」

「分かりません。人が多かったので」

「押されたんじゃなくて、ぶつかったとか
そういうのじゃないんですね?」

「……はい」

事故と事件では今後が違うから
よく思い出してと言われたけど、
背中の感覚が、あれは明らかに
故意によるものだと記憶していた。