エゴイスト・マージ


電車は急停車した位置のままで
何人かの男の人や駅員が電車の下を
覗き込んでいる。


何かを言ってるようだったけれど
余りの騒がしさにその声は
掻き消えてしまっていた。

私は知らない誰かに抱きかかえられ
引きずられるようにホームの中央に
連れてこられた。


私は情けないほど震えていて、
近くに行ってどうなったのか知りたいと
いう思いと、今尚現実を受け止められない
気持ちとが交錯して身動き一つ出来なかった。

ただ視線だけが裄埜君のいた筈の場所を
留めているだけ。

(私が落ちれば良かったのに。
そうすれば裄埜君は無事だった。
私が悪い、私の所為だ……私が。

神様お願い、裄埜君を助けて下さい、
助けて下さい、その為なら何でもします!
お願いします、彼を助けて下さい!)

ガタガタ震える手で必死に
心の中で祈る事しかできない
くやしくて仕方ないのに、それでも
今の私にはそうすることしかできなかった。

さっきから最悪な事ばかりが頭に浮かぶ。

裄埜君に限ってそんなことはないと
何度も何度も自分に言い聞かせながら
時間だけがただ経過するばかりで……

裄埜君、裄埜君、裄埜君!!
無事でいて、お願い!


「生きてる!!無事だ!!」


その声が聞こえた瞬間、周囲に歓喜の声が
上がると同時に拍手が湧き起こった。

「下がって!皆さん危ないですから、
下がってください!!」


「そのままそこで待っていて下さい。
電車がゆっくり動きますので、くれぐれも
動かないで下さい」

駅員の確認の元、電車の下と運転手に
それぞれ指示を送りながら電車がゆっくりと
動き出した。


「オイ、駅員さん俺達も手伝うぜ。
他の駅員さん待っている間にも
早く上げたほうが良いだろうが。
何かあったらどすんだ?
こういう時は客でも使えって、俺ら
手伝うって言ってんだから、な?」」

「――すみませんが、お願いします」

電車が移動した後、線路に駅員と客が次々と
降りて、裄埜君に声を掛けてながら
ホ―ムへ引きげようとしているのを
瞬きも忘れて見詰めていた。

騒めく人集の中、血まみれの腕を
駅員が掴んでるのが見えた時、
気が遠くなりそうになった。

そして―――

裄埜君が大勢の人に抱え上げられ
姿が見えた時、込み上げる感情を
押え切れずにその場で泣き崩れてしまった。

(良かった、良かった……本当に
裄埜君……裄埜君……)

裄埜君を助けてくれた人達や
この奇跡に感謝しても
全然足りないくらいで、もう本当に
良かったとそう思うだけで
心が張り裂けそうに嬉しかった。

「救急隊が来まーす!皆さん
離れて下さい。それとご協力
誠にありがとうございました」

と駅員の拡声器による言葉と
数人が頭を一斉に下げる動作に
もう一度、割れんばかりの
拍手が巻き起こる。

恐らくは、
その場に居合わせた多くの人達の
一種の連帯感が生まれていた為
かもしれない。