「まだ諦めてなかったのか」

先生はメロンパンをかじりながら
私を呆れ顔で言った。

「だって~~」

性懲りもなく先生を花火に誘おうと
昼休み、遅めの昼食を取ってるその横で
必死に口説いていた。

「綺麗だよ、花火、ね?」


うんざりした顔で、
勉強しないなら帰れと言われても
めげない私に、


「お前、友達とかいねーの?
誘ってくれそうな男とかも」

その言葉に先日の裄埜君を
思い出して危うくむせそうになった。

いやいやいや、どう考えたってあれは
ついでだと思う。

裄埜君といえばホント
意識してみてる限り、
同級生も下級生関係なく
ファンが多い。

現に非公式ファンクラブがあるとか
聞いた事があるような気がする。

グランドでサッカーをしてる
その姿を見ようと金網越しでの
ギャラリーは半端なかった。

対抗試合とかは他の高校からも
見学者が見に来ているって、
玲ちゃんから聞かされていたし。


そんな人が私を誘うとか
フツーに考えてあり得ない。

たまたま一緒に帰ったから
何かついでに言ってみた系のノリだと
特に気にしていなかった。

私はきっと気を使われたかなんかで、
裄埜君がわざわざ私を誘いたかったとか
そこまで自意識過剰じゃないと自負してた。


「思い当たる男でもいたか?」

「え?」

「ソイツと行けって」


先生は顔色一つ変えないで
二つ目のメロンパンをかじっていた。


「誰もいないって、そんな人」

「あ。そう」

私の返事とか
興味なさ気で欠伸をされた。

「先生は誰かと花火見に行ったことある?」

「ああ」

え?誰と?

その時付き合っていた人?

「……女の子と?」

誰かと一緒に行ったって言葉だけで
ショック受けてるのに、
何故それ以上聞こうとするのか
自分でもどうかと思うけど。

それでも、

「だったな」

わざわざ傷つく為に質問する私は、


「そう……なんだ」


バカなんだろうか?



他の女の子と行ったことあるんだ、花火。


「楽しかった?」


「はぁ?」

「ねぇ、楽しかった?」

どんな会話したの?
その子の浴衣を褒めたりした?

「覚えてるわけないだろ」


でも、きっとその子は先生と行ったこと
今も覚えてるよ。

「くだらない」

「今まで何人の子と行ったの?」

「さぁ、何人だったかな」

「…………」

「オイ、月島。チャイムなってるぞ」


先生の過去にまで嫉妬とか、


ダメ過ぎる。




人を好きになっていく事は自身が
少しづつ崩壊していくことなんじゃないかと
ぼんやり思った。


私は先生を変えるよりも
自分の方が先に壊れて無くなっちゃう
じゃないかとそう思える程に。



先生が好き。


先生を知るだびにその思いに
拍車がかかってる。



先生が怖いくらいまた大好きになってる。


私、このまま壊れていくのかもしれない。