で、結果、
出るに出られない状況
という訳なんだけど。

願わくば今入っってきた人物が、
一刻も早くこの教室から出て
行っていくれるのを望むばかり。

上履きではない靴音と
……もう一人の足音。

「ちゃんと覚えてます?」

「ええ、勿論」

!!

二人とも聞き覚えのある声……これって
神谷と三塚?

“神谷”といえば国文の教師で
選択科目じゃないから
あまり接点はないけど、
美人系で男子からはやたら人気がある。

“三塚”は化学の顧問。
職員室より良くこの教室で
分厚い本を読んでいる印象が強く、
神谷以上に男女問わず人気が高い。
ファンクラブもあるとかないとかの噂すら
耳にするほどだ。


三塚――


多分、誰もが一度見たら
忘れない程、強く印象に残るその姿。

見慣れない灰色の髪。

そして、

特質すべきその目。

左右の目の色が違う

“虹彩異色症”

と呼ばれていた。

この特殊な目を持っている人が
いる事は知識では知っていたけど、
ここまでハッキリとしたのは
珍しいらしい。

右は茶色、
左は黒……いや青く見えるといった方が
正確かもしれない。
それが整った顔を更に異質的に
際立たせていた。

初めて見た時、
私は目を合わせていいのか
よく分からなかったのを覚えている。

だけど世間的に
女子生徒からはまるでマンガのような
出で立ちがかえって人気なんだと知るのに
そんなに時間はかからなかった。



「三塚先生」

神谷の艶のある声色で現実に引き戻される。

何か微妙な間に見えないだけに
色々な妄想が脳内を飛び交う。

ちょ……こんなトコでマジ!?
二人そういう関係ですか?知らなかった。


もう思考がグルグル回ってパニック寸前。

「流石に此処ではマズいですよ、
生徒が何時来るか分りませんからね」

今、良いこと言った、と三塚を讃える一方で
潜められた声で答える三塚の台詞に、
自分の今置かれている状況を
思い出して内心ドキリとした。

「じゃ、車のとこで待ってますね」


「用事片付けたら行きます」

神谷のローヒールの音がやがて
聞こえなくなり、後は三塚が
行ってくれれば、漸くここから脱出できる。

「さてと……」

三塚の声が聞こえると
その場を動く音がした。

早く早く早く出て行って。


「何やってるんですか?そこで」

必死の祈りも空しく、
教壇の狭い空間に隠れていたのを
真上から覗き込まれて、
呆れたような口調でそう言われた。

……発見されてるし。

「……気が付いてたんですか?」

「はい。最初から」

これでもかという位の満面の笑みで
サラリと次の言葉を付け加えて、
 
「スカート見えてましたしね」

「……」

じっと見られ、やがて思い出したように

「月島ですよね?」



それが先生との授業以外で話した
初めての会話だった。