鋭すぎる女の勘ってのはやっかいだ。


裕子、ごめんな。
誰にも言うつもりなんてないんだ。

言っても仕方ないことだから。


怒りながら少し先を歩く彼女の後姿に「ありがとう」と小さく呟いてみる。


彼女は少しだけ振り返っただけで、言葉を交わすことなく入学式が行われる講堂へと入る。



桜が香る。

香りが記憶を呼び覚ます。


ひとつひとつの些細な場面が、写真のように、映画のように鮮明なまま、色あせることなんてない。

たぶんそれは、俺が後悔してるからなんだろう。


ただ、ひとこと、言えなかった言葉を。