振り返らなくても分かった。
低くて、少しダルそうな声。
振り返ると、やっぱりその人が居た。
「相田さん…っ!」
2本のビニール傘を片手に持って、こちらに近付いて来た。
信じられなかった。
もう二度と会えないと思っていたのに。
きっともう、会うはずは無いと思っていたのに。
「風邪引くぞ」
そう言って、俺に傘をつきつけた。
「なん…で…」
「ああ、昨日このマンションに引っ越してきた。まさかお前が隣だとは思わなかったけどな」
きっと神様はずっと俺に不幸を与え続けてきたのは、このためだったんだ。
初めは“不幸”だと思ったこの出来事も、今では違う。

