魔天戦史

「そうだ。そしてそこでは聖霊達が独自の生活圏を築いて生活している。人間はそこに住む聖霊の一体と運命を共有している。その聖霊を特定し、こちらの世界での活動を可能にするのが契約だ。」

「そうなんですか…」

その時小屋の中に旋風が巻き起こった。

「…シルフィードか…」
パラケルススが呟くと、風の中から男性が現われた。髪と瞳はエメラルド色で、髪は腰まで伸びている。肩からは白いローブを羽織っている。

「主よ、小屋を囲まれたぞ。」

「…またか…」

「どうする?私が行こうか?」

「…あぁ。頼んだ。」

「承知した。」

パラケルススがシルフィードと呼んだ男性は短い会話が終わるとまた風に包まれて姿を消した。

「今の人は…」

「今のは、風の精霊の王だ。」

「風の精霊の…王?」

「各精霊には、それを束ねる王がいる。シルフィードは風の精霊の王だ。」

そこで勇翔はふと気付いた。

「…精霊と聖霊って、一体何が違うんですか?」

「聖霊は、異界に生活しているもう一つの人類とも言うべき者達の総称だ。精霊とは、万物に宿る自然の意思が具現化した存在だ。言わば世界そのものだな。聖霊はあらゆる力が使えるが、精霊は自然の力しか扱えない。だが逆に言えば自然の力を扱うことに関しては他の追随を許さないほどだ。」

「じゃあ、精霊は皆上級魔法が使えるんですか?」

「精霊には、魔法という概念がない。精霊達は自然と会話してその力を借り受ける形であらゆる奇跡を起こす。それこそ、魔法と遜色ないほどに、な。」

「へぇ…」

そんな二人のやり取りを憲蔵は少し離れて見ていた。

「…賢人にあそこまで食い付くとは…やはり勇翔の集中力は並みでは無いな…」

するとまた旋風が巻き起こって中から男性が現われた。

「主よ、外の敵は殲滅したぞ。」

「そうか、ご苦労だったな。」

シルフィードはそれだけ言ってまた風に包まれて姿を消した。