二人から離れていた勇翔には二人の会話は聞き取れ無かった。

「…分かった。小屋に戻ろう。」

老人は釣竿を勢い良く振り上げて糸を竿に巻き付けた。

「さ、行くぞ。」

老人は小屋に戻った。
「俺達も行くぞ。」

「は、はい。」

二人もやや遅れて小屋に入った。中には暖炉があり、老人は椅子に座っていた。二人は空いていた椅子に座った。

「そうだ、ユリスからこれを預かって来ました。貴方に頼まれたものと言ってましたが…」

「あぁ。確かに儂が頼んだものだ…」

「一体、なんなんですか?」

「…賢者の石だ。」

「賢者の…石…!?」

勇翔はその単語に驚いた。

「賢者の石…幻とまで呼ばれた霊力増幅装置…あらゆる元素を内包し、その力であらゆる魔法の威力を増大させる…やはり貴方がお持ちでしたか。」

「…これは、人の世には出してはならん…儂はこれで、何万人も殺した…」

そういう老人の顔は、酷く悲しい表情をしていた。

「あの…」

「ん?あぁ、済まんな勇翔。この方が、この方が、万物の根源である火、土、水、風の四大元素を操る、数少ない『エレメンタルマスター』の異名をとる最高の錬金術師…賢人パラケルススだ。」

「パラケルススって…昔いたって言われる錬金術師ですよね?」

「あぁ。彼は、聖霊なんだ。」

「せ、聖霊…!?」

「聖霊の中には自分の力だけで現出できる聖霊が極まれにいる。パラケルススもそうした聖霊の中の一体なんだ。」

「へぇ…」

「儂は、かつてこの世界の住人だった頃、あらゆる錬金術を極めた。そして儂は死後、異界へと降りたった…」
「異界…?」

「聖霊達が住う、もう一つの地球だ。地理も全て同じ、奇妙な世界だ。」

「そこから、聖霊は来てるんですね…」