月明りが、暗い木々の中に二つの人影を映し出している。人影は、周囲を確認しながら、ゆっくりと、だが確かな足取りで林の中を歩いていく。

そんな人影を、紅い瞳の獣がじっと見つめている。



獣は息を殺して、ゆっくりと近付いていった。








「………やはり、富士の樹海は危険ね……」


「アイリス元帥がいらっしゃれば、何の問題も無いかと思うが……」


「あら、私は戦闘は専門外ですもの………それなら、レミントン大佐の方が心強いわ」



「……ジョージで構いませんよ。私だって、そこまで強い訳ではありませんよ。専門外と言いつつ、元帥の座におられる貴方の方が、よっぽど心強いですよ」



「……ふふ…そうかしらね………」



アイリスが呟いたその時、二人を囲む様に、獣の群が現われた。だが、その獣の瞳は普通の瞳では無く、紅い凶暴な光を帯びている。ジョージは腰のサーベルの柄に手を掛けながら、周囲を見渡した。



「………どうやら、異界の魔獣の様ですな………なぜ、こんなところに……」



「……富士の樹海が、異界との繋がりが他の場所より強いからだと思うけれど……多分、誰かが放ったものでしょうね……」



「……誰か…というと……?」



「……アイザック・シリウス…かも知れないわね………」



「……なるほど…彼等も、星詠みの郷を探しているという訳か……」



「魔獣なら、捕獲される心配も無いし、万が一捕獲されても、自分達に捜査の手が及ぶことはまず無い……そう考えてのことでしょうね………相変わらず、油断しない人ね、あの人は………」