「……ハァ…ハァ……クソッ、まさかあいつが……」


夜も更けた街角、一人の男が息を切らしながら灯の消えた街角を走り抜けていた。



暫く走り抜けて、男は辺りを見回した。


「…ここまで来れば、流石に……」


だが、そこまで言って男は言葉が途切れた。男の胸には、月光を受けて眩く煌めく白刃が生えていた。


「ば、馬鹿な……ッ!?」


僅かに残った力を振り絞って男は振り返った。だが、男は背後に立つ誰かの姿を見ることなく、白刃を引き抜かれて地面に倒れた。


そして、倒れた男を見下ろす人影……その手には、血に濡れたナイフが握られている。


「………時間が…無い……あと、少しだ………」



人影は、それだけ呟いて何処へと姿を消した。















「……捜査を開始してから、今日で二日か……未だにめぼしい成果は上がっていないな……」


緋凰は煌狼衆の幹部三人がそれぞれ捜査したレポートを読んでいた。そのどれもが、確実とは言い切れないものばかりだった。


「……傷跡はみぞおちを一撃で貫いている為にどんな凶器を使うのかも特定できず、男か女かさえも分からずじまい、か……」


「更にはランダムで出没する為、次にどこに現われるかも予測不可能……厄介な通り魔だな……緋凰、かつての盟友の貴方の頼みだからここまでしているが、元々我々には関係無い事……意味が無いとなれば、早々に手を引かせて……」



「それで、私を敵に回す…か?」


「……………」



「……お前達とて、知らぬ訳ではあるまい?……大日の光の恩寵を…………いや、お前達だからこそ……というべきか?」


「………」


三人は緋凰の静かな気迫に言葉が出なかった。