拾蔵は二人に近付いた。

「…さぁ、儂らも降りよう。」

「…はい…」

八洲は小さく呟くと拾蔵の顔も見ずに下に降りた。

「…やれやれ…重症じゃな…」

拾蔵は少し遅れて下に降りた。居間に行くと、八洲と弥佳以外の全員が揃っていた。

「…さて、もう知っておる者もおるじゃろうが、伝えておくかのぉ…弥佳が、悪魔の攻撃により、重傷を負ってしまった…もう、長くはないじゃろう…」

拾蔵のその言葉に、勇翔以外の全員が言葉を失った。

「何だって…!?」

「弥佳ちゃんが…」

京介と蓮は相当ショックな様だ。逆に大人達は冷静だ。

「…そうか…八洲はどうした?」

そう聞いたのは緋凰だ。

「今は客間で弥佳の側におるよ。」

「…勇翔、付いて来い。拾蔵と悠里も来てくれ。」

「あ、はい…」

勇翔は力無く立ち上がって三人の後に付いて行った。部屋に入ると、中には床に寝た弥佳と、横に座った八洲がいた。八洲は力の無い瞳で弥佳を見つめている。

「…八洲さん…」

勇翔が声を掛けようとしたその時、弥佳がゆっくりと目を開いた。
「!?弥佳…!?」

「…ヤックン…ごめんね…私…ッ…」

弥佳はもう満足に話も出来そうに無い。それでも懸命に八洲に話し掛けた。

「ヤックン…私…ッ…」
「!?もういい!だから喋るな!」

しかし弥佳は喋るのを止めない。

「…ヤックン、私ね…嬉しかったんだよ…ヤックンが、私を見てくれた時…凄く、嬉しかったんだよ…だから、ねぇ、ヤックン…」

弥佳は動かない右手を必死に動かして八洲の涙を拭いた。

「…泣かないで…ヤックン…」

八洲は力の無い弥佳の手を握った。

「…ヤックン…」

弥佳の目が少しずつ閉じて行く。

「!?待て…待ってくれ…!」

しかしもう半分は目を閉じていた。

「…ありがとう…」

弥佳は最期にそれだけ言って目を閉じた。右手が力無く床に落ちた。

「…弥佳…ッ!?」