正義の在処

彼は臆病者だった。
臆病だからこそ、戦争になど行きたくなかった。
臆病だからこそ、それを言うことが出来なかった。
臆病だからこそ、上官の怒りを買った。
臆病だからこそ、戦功を急いだ。
臆病だからこそ、臆病な作戦を取った。



そうして、今、彼の目前に広がる光景は、彼が望んだものだった。


崩れたテント。
砂煙。
へし曲がった鍋。
折れた銃。
千切れた手足。
炸裂した頭蓋。
熟れ堕ち潰れたトマトのような人体。
血の匂い。
言葉にならない痛みを示すうめき声。



すべてが彼が望んだものだった。
そう、臆病な彼が望んだ光景そのものだった。



敵軍のキャンプ。
投下型の炸裂衝撃弾。


光、耀、ひかり、ヒカリ
音、おと、オト

鉄錆の香り。

負傷した兵と、民間志願救護者が主なキャンプであることも調べてあった。
道徳など関係なかった。
なぜなら、彼は臆病だったからだ。



戦争の中で、人を殺さなければ上官に殴られる。
その恐怖だけが彼を支配していた。



道徳などない。
戦場では、ありふれた光景だ。



彼は震える足で、うめき声と鉄錆の香りの交差する場所へと歩を進めた。
足元でうごめく、人だったもの達と、生き物ではなくなっていく蛋白質の塊。




「………~……~っ」


ふと、彼は確かな声を聞く
振り返ると、倒壊したテントの隙間に挟まるように人の形を保ったものが見えた。
彼は、銃を構えなおし、ゆっくりと近づいた。


それは、初老の女性の形をしていた。
しかし、半身が吹き飛び、右手と右足が在るべきところからは、赤黒い液体が流れ出し水溜りを作り出していた。


「~……~~っ」

再び、女性の口が音を紡ぎ出す。
その視線は揺らぐことなく彼を見ていた。
敵国には珍しい緑柱石の瞳が、彼を捉え―――微笑った。



彼は、銃口を女性に向けたまま、ゆっくりと歩を進めた。


「……ら……ない」


肺からもれるノイズ交じりの言葉。
それが、聞き取れるまでの距離。