エレベーターを降り、エントランスから側道へまわる。


拓也は、車に体を預け、携帯をいじっていた。
髪が伸びていた。少し痩せたようにみえる。
あたしの姿に気づくと、上半身をはねあげてニッコリと笑顔を向けた。


一年振りに面と向かったあたしへの第一声は、
「久しぶり」でも「会いたかった」でもなく、「ドライブに行こう」だった。




「乗って?」

助手席側のドアを開け、拓也はいそいそと運転席に乗りエンジンをかけた。

首を傾げたくなる。
彼の意図が全くわからない。


なぜ今になって、あたしのところにに来たんだろう。




あたしが断るという選択肢は、彼の中には無いらしい。
仕方なしに助手席に乗り込んだ。

車は何棟も立ち並ぶマンション街を抜けて、国道方面へ向かって走り出す。
拓也の横顔は、心なしか口元を緩めているように見えた。







『こっちに来てたんだ。』

敢えて、『戻ってきたんだ。』とは言わなかった。


「ああ、今朝の飛行機でね。
コイツがさ、今日、納車だったからさ。」

嬉しそうにハンドルをポンと叩く。




この車は知ってる。
何年か前に流行ったモデルだ。
赤いRV車・・あたしが気に入ってた車種だ。




「この色、やっぱりいい色だよなぁ・・
派手じゃない、渋くて落ち着いた赤だよな。
真奈、この色のがイイって言ってただろ?

ちょうど買い換えようって思ってたら、こっちの知り合いの店にあってさ、即決めしちゃったよ。
だから、一番に見せたかったんだ。
地デジナビもETCも付いてるんだぜ。」



得意満面な顔で話し始める。