「ああいい、俺持ってるから」

 ……そのときだった。

 壱兄はあたしの腰をすばやくさらうと、あたしが抵抗するまもなく唇を重ねた。

「ちょ……こんなっ……」

 抗議の言葉を聞くはずもない。そういう突然のキスをあたしが好んでいると、壱兄は知っているから。

 執拗に上唇と下唇をなめ、ようやく唇を離す。

「ほら、きれいになった」

 あたしは車のバックミラーで唇を確認して、ため息をついた。

「ちょっと扇情的すぎるけどな」

 壱兄に拳骨一発くれてから、あたしはさっさと車から降りる。Kプリンスまでは、歩いて1分のところだった。もしかしたら誰か、知り合いに見られたかもしれない。

 あたしのくちびるは、壱兄のキスで、ひどく紅色に染まっていた。