「送っていくよ」

 壱兄は、珍しくあたしの部屋に来ても、あたしに手を出さない。いいのか悪いのかわからないけど。

「だから、いいって言ってるじゃん。昨日もさんざん、壱兄あたしにそう言ったけど。あたしはいいって言ったんだよ。今日の結婚式でのみたくないからって」

「……酒豪の癖に」

「酒豪だってのみたくないときはあるの」

 別にあたしはバッカスじゃないんだから、そう言ってほおを膨らませると、壱兄は笑って、自分の机の前でパソコンに向かうあたしの左横に立つと、左手をあたしのほおに滑らせた。

「化粧までかよ。まったく、何から何まで厭味だなあ」

 別に壱兄は康兄と仲が悪いわけじゃない。ときどき、浩兄も入れて3人で、あたしを抜いて飲みに行くときさえある。

「じゃあ、のせてって」

 ――千秋の結婚式が終わるの、待ってるから。

 そこまで言われて断るすべを、あたしは知らない。