「ふう、危機一髪だったな」

「危機一髪とか言ってる場合じゃないし……」

 あたしは苦笑いする。本当にそのとおりだ。兄妹でキス。正しいことだとは思わない、背徳の行為。どうしてあたしたちはそれをいまだに続けているのだろう。

「とりあえず、浩兄がもう夕飯だから降りてきてだって」

「わかった。じゃああとで」

 かるい、掠めるようなキスをあたしのくちびるに落として、壱兄は余裕綽々であたしの部屋を出て行く。

 あたしが怒るまもなく、ドアを閉めて。





 そんな感じで、あたしたちは今日もキスをする。

 特別じゃないけど、特別な関係。

 壱兄はいつだって、あたしを翻弄するのだ。