トントン、誰かが扉を叩く。
「……来たようだな」
佐倉は初の顔を見ずに扉へ向かう。
そして扉は開かれて。
「お初さん、御衣黄(ぎょいこう)ただ今参上いたしました。」
「ああ。呼び出して済まなかったね」
先ほどから"あいつ"、"あの子"と呼ばれていたのがこの御衣黄だ。
淡緑色の美しい花を咲かせ、中心から徐々に赤みを帯びる珍しい桜。
その化身の姿は、暗めの着物に淡緑色の髪を結い上げ、髪留めには自らの枝。
黒の瞳は目尻を囲うように刻まれる赤の刺青が妖艶さを演出する。
美しい顔立ちが多い桜の化身の中でも一二を争う美形。
そして、600種はいるであろう桜のなかで唯一。
――彼は男なのだ。

