ほとんど渡してから



「愛梨栖、家どこ?」



「ん?こっち。」



と指さしたのは今、進んでいるほうと真逆の方向。



「えっ!?反対じゃん。もうここまででいいよ。」



「いや、アタシ、あっちに用があるから。」



と今度指さしたのは試験が終わってから行ったクラブハウス。



愛梨栖の格好を見ると、会ったときと変わらず、ステージ衣装っぽいのを着ていた。



「これからライヴやるんだけど、見に来ない?」



「えっ!行ってもいいの?」



「もちろん。つーか連行してくから。」



そう言うと愛梨栖は美利亜の手を掴み、



「というわけで、美利亜、お借りします。」



「えっ?借りるってうち、物じゃないんだけど。」



とつっこむ美利亜を無視して



「どうぞ、どうぞ。こんなんでよければいくらでも貸すよ。」



「いや、だから物じゃないって!」



「じゃあ、借りてきます。」



愛梨栖は美利亜を引っ張って走った。



「だから物じゃなーい!」



美利亜の叫び声が響き渡った。



     ****



クラブハウスに着くと愛梨栖と美利亜は人混みを掻き分けて1番前の中央のテーブルに行った。