黄昏時、会いに行く


そう二学期に新たな思いを馳せていた私にとって、この知らせはあまりにも残酷で不条理だと思った。

「……え?今、何て?」

「転勤だよ、転勤」

アブラゼミの声と共に、つくつくぼうしが鳴き始めてきた頃だった。
いつものように帰宅した私に向かって、お父さんはそう告げた。
思わずその場に鞄を落とす。

「な、なんで……?」

「なんでも何も、決まったことはしょうがない」

「転勤先は?」

「アメリカだ。今度は家族全員で移動する」

「そんな……」

この大切な時期に、アメリカへ転勤!?
学校、友達、受験、それに……

「学校は九月から向こうの方に行ってもらう。手続きはもう済んでいる」

「……」

「友達への挨拶は済ませておきなさい」

「……」

もう嫌だ。
何で全部勝手に決めちゃうの?

「待ちなさい!!」

お父さんの制止を無視し、私は家を飛び出した。

夜の街は冷たい。
白熱灯の色や、静かな住宅街が更に周りを冷たくしていた。

勢いよく飛び出たものの、どこへ行こうか……
やっぱり、行く場所といったら例の公園しかない。

『黄昏は逢う魔が時』

ふと、清水くんの声が頭に響いた。
黄昏も何も、今は宵闇だ。
それに、今は家に帰りたくない。

私は公園に向かって歩き始めた。