そして今にも音を奏でそうな形のいい唇。
この人があの歌声の主なのだと確信した。
歌っていたときの声よりも随分と"可愛い"といった印象を受けるけれど、間違いないと思う。
わかるものだ。
雰囲気の違いはあれど、それは同じ世界のもの。
この唇が震えて、奏でて。
あの音楽は空気に触れた。
(あ、謝らないと…)
謝ってお礼をして。そのために意を決して立ち上がったのだから。
けれど、突然のことに動くことが出来ない。
自分でも動揺しているのがよくわかった。
目の前で確かに存在しているその瞳に言葉が飲み込まれていく。
綺麗な、綺麗な瞳。
同じ人間なのかと疑いたくなるほど、私には彼の目が神秘的なものに見えた。
きっと空から降ってきたと言われても疑うことはないだろう。
そこから見えるこの世界は、私の目で見えている世界(ココ)とは違うのだろうか。


