それは彼の前だから出来た魔法だったかもしれないけれど。
それでもアダムはどんな言葉も真剣に聞いてくれたから。
だから私も向き合わなくてはならないと思った。
周りにも、自分自身にも。
彼の綺麗なあの瞳をもう一度真っ直ぐ見つめるために。
「…うし、」
一人小さな声で気合いを入れて立ち上がる。
もう家族が起きていることには気付いていた。
微かに階段下から聞こえる物音がその証拠。
(がんばれ、私)
それは祈りに似た呪文。
耳に掛けていたヘッドフォンを外して。
アダムがくれた言葉を胸に階段へと足を向ける。
いつもは険しく果てしないと感じるこの場所だけれど、今ならいつもよりは軽快に歩けるかもしれない。


