「でさ、話戻すけど。そういう風に言ったら普通喧嘩になるっしょ?けど帝すげぇ笑顔だったの。『はいっ!』つって買いに行ったの。意味不明でしょ」

「……うん」

「戻って来たと思ったら、今度はいきなり俺の手を握ってきた。『生意気な口きいてすみませんでした!あの…蹴ってください!』って言われた」

「……………」

「『はあ?蹴るってどこを?』って聞いたら顔赤らめながら『ど、どこをって…言わせる気ですか…?えっと、あの、…お、俺の……』って言ってくるもんだから本能に任せて顔面をぶん殴った。そりゃもう思い切り」

「うん、その状況だったらあたしも同じことする」

「けどあいつへこたれないんだよね。俺が殴った後も何回も『俺を下僕にしてください!』だの『もっと痛くしてください!』だの……。あいつ、ゲイなのかと思ったよ」


帝のドMっぷりは凄まじいことがよく分かる悠斗の話だった。


「ええと…つまり、帝の言葉にはできるだけ逆らわない方がいいってこと?」

「そうだね。半端なく面倒で半端なく気持ち悪い目に遭うよ」

「……了解しました」



「ねぇ、玲香。あれ桐沢じゃない?」



突然奈美がグラウンドを指差した。
それを目で追うと、確かにグラウンドの端の木がたくさん生えているところに帝が立っている。
近くには女の子の姿。


「…………」

「玲香、あれって……」

「『告白』だろうねぇ」


悠斗がニヤニヤしながら言う。


「玲香ちゃんと付き合ってることは学校新聞に載ったから全校生徒が知ってるはずだけど……やっぱ諦めきれない子も多いんだな~」

「むう…」

「どうするの?玲香」

「別にあたしには関係ないし」


彼女はあたしなんだから。
関係ないよ?
関係…ないけど…



「…ちょっとトイレ!」



そう言って教室を飛び出した。







「トイレは逆方向なんだけどなぁ」

「……悠斗、あんまり玲香で遊ばないでよ」

「えへへ。可愛くてついね!」



二人のこんな会話は全く耳に入ってこなかった。