「ねぇ少し散歩しない?」
「うん」
「元気ないじゃない」
「疲れたのかな」
「散歩やめる?」
「ううん 行く」

食事を終えるとホテルのプライベートビーチを私と先輩はふたりで散歩した
カメラマンの彼は明日の打合せで忙しいらしい
ふたりは何も話さない 
ただ 波の音を聞き 心地よい風を感じながら歩いていた

「あたしね」

彼女が最初に口を開いた

「ん?」
「カメラマンの彼をね……」

彼女の告白
いつも一緒にいたはずの彼女
私の知らない彼女が顔を出す 幾つもの私の知らない先輩の顔

「彼との付き合いはね もう2年になるかな」

先輩がモデルを始めた頃 だね 知らなかった 

周りの男子の誘いも いつもはぐらかして断っていた
相当のメンクイか はたまたレズか なんて冗談を言ってたけど
本当の理由(わけ) 彼がいたんだね それも….

私って 

「先輩 でも 奥さんがいる人だよ」

何のいじわる?

「そうよね わかってる」

「結婚の約束とかしてるの?」

私って最低

「いじわる…そんな聞き方なんでするの?」

彼女は瞳にたくさんの涙を浮かべて私を見た

「いくら先輩でも ふっ 不倫は許せない 逆の立場だったら哀しいでしょ」

「ばかぁ わかってるわよ だけどね 好きなの 彼を愛してるの 
どうしょうもないの」

涙の粒は彼女の大きな瞳からとめどなく零れ落ちた
そして彼女の身体はキラキラ光る砂の上に崩れていった

「ごめん…ごめんね 先輩….」

まるで小さな子供みたいに細い肩を震わせて泣きじゃくっている 
こんな彼女を見るのも初めてだった 私は彼女を抱きしめた

ごめんね 先輩 でも 
やっぱり 誰かを傷つけた上に幸せは成り立たないよ

夜空はたくさんの星を散りばめていた