――恋に落ちるのなんて簡単だ。 理由なんてなくていい。 電車の中。 少し離れた斜め前の席。 それがキミと私の距離。 これ以上縮まることのない距離。 キミの存在に気づいたのはいつだったのだろう? 私は毎日、帰りの電車で決まった席に座る。 そしてキミも毎日決まった席に座る。 自然と視界に入るのか、それとも無意識に探しているのか、自分でもわからないけれど、帰りの電車でキミを見ない日はなかった。 目があったことは今まで一度もない。 つまりキミは私の存在を知らない。 そう 思っていた。