く ち び る



「聞こえるか?俺の声」


 こくり、と無意識に頷けば男はそうか、と顔の筋肉を緩めた。

 現実離れしたそれに、見入る。


「わりーな、声帯変えるの忘れてた。こっちの音は昔から苦手なんだ」


 全く持ってわけのわからないことを言いながら、わたしに近づく男。逃げようにも、怖じけづいてしまって体が動かない。


「っやだ、来ないで」


 ソファーに乗り上げてたきた男に、逃げるすべもなく隅に追い詰められる。

 白に近い金色の髪が、音もなくさらりとすべり落ちた。


「お前が、桐島生恵?」