く ち び る



 時は遡ること10分前。

 一日の授業を終え、わたしは父と母が残した家へと帰宅した。

 制服からキャミと短パンに着替え、リビングのソファーに寝転ぶ。なんとなしにニュースを付けた。


《続いてのニュースです。イタリアの豪華客船二隻の沈没から5日が経ち、確認された遺体の数は、1200人を越えました。現地では、未だ必死の救助活動が行われていますが――……》


 そんなに、死んだんだ。

 他人事のように、テレビ画面の向こう側の悲惨な光景を見ていた。

 その時だった。

―――ピシィ

 テレビが不気味な音を立て、次の瞬間には弾丸でも打ち込まれたような衝撃と共に画面が粉砕した。

 同時に頭上の電気も破裂し、何が起こったのかもわからないまま反射的に頭を抱えた腕に、何かが突き刺さる痛みを感じた。