途中沢山の来客者とすれ違う。



頭を下げながら、ようやく受付まで戻ってきた、その時。



微かに掠めたあの匂い。



振り返ると、そこには沢山の人がいて。



誰がその匂いがしたのか、分からなかった。



「彌さん、どうかしたの?」



安田さんが、私の異様な行動に気づく。



だが、匂いのことなんて、別に言うまでのことではない。



「ううん。なんでもないわ」



私は再び、席に着いた。



それから仕事をなんとか終え、家に帰る。



受付嬢は、表向きはきらびやかな仕事だけど、結構身体的にも精神的にも疲れるものだ。



私は玄関に、そのまま倒れ込む。



「あら、彌。
そんなところで寝ないで?」



お母さんに、トントンと身体を揺すられるが、体力は限界。



そのまま眠りに着いた。



***



目が覚めると、私は自分の布団の中にいた。



まったく部屋に入った記憶がないのだが。



時計を確認すると、もう3時。


私は急いでシャワーを浴び、出勤した。



「彌さんってー、ストーカーとかいないんですか?」



更衣室で着替えていると、いきなり安田さんが、そんなことを言い出した。



「いるわけないでしょー」



そう言って、ふとあの人が頭を過ぎった。