「本当に面白い人だ、彌さん」



彼は俯せになり、肘をついて私を見る。



「えっ?

なんで名前知ってるんですか?!」



「悪いけど、時間切れ。

また来ますね?」



彼はすくっと立ち上がる。


「なんですか、時間って」



私もつられて立ち上がる。


「門限みたいなものですよ♪

では」



彼は縁側から庭に下りる。


私は、そのあとに続く。



「今日は、彌さんの好きな肉じゃがじゃないですか?」



「へ?」



確かに、私の好きなのは、肉じゃがだ。



…だが、彼が知っていることが不思議で。



「彌ー。ご飯よー」



居間から、母の声が聞こえ、私は彼から目を離す。



そして、


「はーい、今行くー」



そう返事をして、再び彼に視線を戻す。




と、そこには彼はいなかった。



ただ仄かに、懐かしい匂いだけが、残っていた。