気絶した男が四人、無様に地面に転がっていた。手から離れた刀は遠くに投げ捨てて、とりあえず変態の征伐は終わった。正直、これじゃあ物足りないくらいだけど。

「深山葵」

 響いた声に、耳を疑った。
 リンチをするような馬鹿は人気のない場所を選ぶのが上手。だから、誰も来ないだろう、と踏んでいたのに、よりによって、私を疑っている人間がくるとは思いもよらなかった。

 傍から見ればさぞやぎこちなく降り向いた私の目が捕えたのは、腕を組んで納屋の壁に寄りかかり、仏頂面でこちらを見ている副長、土方さんの姿だった。

「何か、」
「士道に背くまじき事、局を脱するを許さず、勝手に金策致すことを許さず、勝手に訴訟を取り扱うことを許さず、そして――、私闘を許さず。局中法度だ、覚えておけ」
「…破ったら?」
「条文に背く者には切腹を申し付ける」

 ぶっきらぼうな低い声は淡々と言う。その表情は仏頂面のままだけれど、怒っている様には見えない。かといって、それ以外の感情が浮かんでいるとも読めない。

「永倉が言っていた。お前の剣は、基本に忠実ながら、人を惹き付けるような魅力を持っているってな」
「そうですか」
「俺の見解を言わせて貰うぞ、深山葵」
「…どうぞ」

 結構です、と告げたかったが、どうせそう言ったって、目の前の男は無遠慮に言うのだろう。

「お前の剣は、人殺し向きだ」
「…は?」
「総司と、そっくりだ」

 それだけを言い残して、土方さんはさっさとその場を去っていた。
 残されたのは、呆然と立ち尽くす私と、まだ地面と仲良く寝転んでいる男たち。

「…なんなの」

 人殺し向き。
 土方さんの言い放った一言が、頭の中でこだまする。そして時折、ハウリングのように響いて頭の内側から突き刺さる。

「そっくり、って」

 沖田さんのように、私がいつか誰かの首に刃を向けるとでもいうのか。
 ――再び、向けるとでも?

「…っ」

 きらい、かかわりたくない、はなしたくない、ちかづきたくない。
 それが、怖そう、仏頂面という第一印象に加えて土方さんにもった、印象だ。