矢車の夢



 何時の世も、変態は存在するらしい。か弱い婦女に暴行し、あまつさえ淫行を働こうとする下劣な輩。女という立場として、テレビで見るそんなニュースを見るたびに、男に対しては百回殺した挙句去勢しても罰は足りないと思う。

「調子に乗るな、女風情が」
「永倉さんは同情なさってるだけだ」

 汚いつばを飛ばしながら、怒鳴り散らし、群れてしか行動できない習性は、今も昔も変わらないらしい。
 人気の無い納屋の裏。石造りの納屋の壁に向かって突き飛ばされて肩が少し痛む。衝撃のまま座り込めば、名前も知らない四人が私の周りをぐるり、とさらに狭く取り囲む。

「…ああ」

 なんてことない。ただのリンチだ。集団の数に物を言わせた暴力だ。よくあったことだ、懐かしい。昔、といっても一週間も前じゃないけれど、そうだな、目の前にいたのは男も2,3人いたけれど、スカートをこれでもかと短くし、分厚いメイクときつい香水を撒き散らした、10人近い女子もいた。

 ここに来てからまだ3日。嫌われるようなことをした覚えは、まあ、ある。突然師範として私が名を連ねたのだ。永倉さんが言ったとおり、実力を示せば多くの人が私をその日のうちに慕ってくれた。しかし、腕を伴わないプライドを持った隊士たちの何人かは反発した。

 よくある、ことだろう。
 劣等感の吐き捨てる場が見つからず、それは悪意に変わって、人を傷つける。

 そもそも、永倉さんの紹介の仕方が悪いのだ。何が「有名道場で指導を受けた才女」だ。「新撰組のため、松平公に頼み来ていただいた」だ。「少し剣をかじったくらいじゃ、一太刀浴びせることも叶わない」だ。