「だけどな、深山。お前の太刀筋は、構えは、見惚れるくれぇ綺麗だ。頭のてっぺんから、つま先まで。一本の芯が通ってるみてぇに。基礎に忠実、だが型に嵌ってるだけじゃない。なんつーんだろうな。まるで――、芸者だ。舞妓みてえにただ舞って興を添えるだけじゃねえし、華やかなだけじゃない。誰もが見惚れる何かを、持ってる」
「…え、と…」
「我の強い連中でも、必ず落ちるだろうよ、お前の剣に。そんで、知りたくなる。お前の剣の何が、どうしてこうも惹きつけんのか。知るために、お前に教えを請う」
俺もな、と永倉さんは小さく呟いた。
恐らく、私の顔は少し赤くなっているかもしれない。
私の中で、剣の道を極めることに対しての比重はとても大きい。アイデンティティとも言ってもいい。それを突然べた褒めされたのだ。アイデンティティである剣道。それを褒められたことは、私自身を肯定されたといっても過言ではない。
すっかり忘れていたこの感触。幼い頃、よくやったな葵、と頭を撫でる父。かっこいいわね、葵と手を握り労わってくれる母。俺の妹はすごい、と手放しで褒め、そして全身で抱きしめてくれた兄。こそばゆいような、むずがゆいような、そんなすっかり遠くなった―――思い出。
思い出は美化されるものだ。そして、ずっと心の奥底に鎮座するものだ。
そして何かの拍子に、ふいに思い起こされては、私の頑な感情を揺さぶって、涙腺をひどく刺激するのだ。
鼻奥のつん、とする刺激に首を振り、永倉さんを見上げる。
