矢車の夢




 確かに、剣道の腕は確かに自信があった。
 けれど、永倉さんの手合わせで、実際の剣術となれば勝手が違うことは十分に分かった。そして、到底、彼に及ばないことも。

「買いかぶりすぎです」
「んなことねぇよ。俺の目は確かだ」
「…随分自信家なんですね」
「そうでもねえよ。むしろお前のほうが随分卑屈じゃねえのか、深山?」
「そんなことありません」

 否定を繰り返せば、永倉さんは困ったように頭を掻いた。太い眉尻を下げる表情は、なぜかこちらを申し訳なくなせる。しかし否定する言葉はもちろん本心からくるものだ。大会では優勝経験もあるし力量も自負しているが、永倉さんとの手合わせで、私の力量がどんだけ些細なものか思い知らされた。永倉さんは力技で押しているようにも思えたが、しかし基盤の確かな技術があってこそのものだ。
 そんな彼がいるのだ、そもそも私が師範となる必要さえ感じられない。

 それを指摘すれば、永倉さんはそれは違う、と言う。

「俺や総司は構えも独特すぎて隊士に教えてもわけわからないって顔される。斎藤は、あいつはそもそも左利きだからな。俺は否定する気はねーが、剣の道じゃ邪道もいいところだ」

 確かに、そんな師範では、師弟は困るかもしれない。