矢車の夢



「さて、君が屯所の前に居た経緯を話してくれないか?」
「…何故ですか?」
「ああ、そんなに警戒しないでいい。総司が黒ではないと判断したのなら、私達はそれを信じる。私達が今知りたいのは、君がどこからきたのか、ということだ」
「そう、ですか」
「困っている民を見捨てるわけにもいかないからな。それと、今にも死にそうな顔色をして、大丈夫です、と言われても信じられないな」

 近藤さんの言葉に、思わず顔に手を当てる。
 そもそも私は寝起きのようなものだ。ついさっきまで、散々泣いていたせいで、きっと目も赤い。相当、酷い顔をしているのかもしれない。

「あの、顔を洗ってきても」
「いや、そうじゃなくてな。なんというのかなあ。風に吹かれたら消えてしまいそうな、儚さがある…そう思わないか、歳」
「あんたがそう言うんならそうなんじゃないか。俺には神経の図太い女のように見えるけどな」
「女性に失礼だぞ、歳」

 風に吹かれたら消えてしまいそうな、儚さ。
 随分と私に似合わない言葉だ。
 土方さんの言った、神経の図太い女というほうが、よっぽど私に合ってる。