矢車の夢




 手を引かれながら元居た部屋に戻れば、既に局長、恐らく近藤さんは既にいた。
 どっしりとした身構えに、精悍だけれどおっとりとした顔。まるで、牙の抜かれた虎のようだ。
 近藤さんの隣にいるのは、やたら目つきの悪い男。今にも喉笛に噛み付いてきそうな、狼のように、鋭い目つき。

「連れて来ましたよ」
「ご苦労、総司。手の怪我は大丈夫なのか?」
「え、あ…」

 近藤さんの言葉を聞いた瞬間、思い出したように急に手のひらに痛みが走った。軽く握りしめていた手を開けば、鋭い傷口は塞がりかけていたけれど、僅かに血が滲んでいた。
 でも、無視できる程度だ。

「大丈夫です」
「そうか。それは良かった」

 なんだか、ここに来てから心配ばかり、されているような気がする。
 申し訳ないと同時に、少し、嬉しい。

「うちの総司がすまなかったな、深山くんか?立っていては辛いだろう、座りなさい」

 勧められるままに私が布団の上に座る。それを見届けた沖田さんは、近藤さんの背後に警護でもするかのように立った。
 男三人の威圧感は中々大きい。

「まずは名前からだな。私が新撰組局長を勤める近藤勇だ。こいつは副長の土方歳三」
「俺は沖田総司。よろしく」

 一人ひとり、視線で辿っていく。近藤さんは人がよさそうで、沖田さんも、普段は優しい人なのだろう。
 けれど、土方さんだけは、今にも人を殺しそうな視線で、こちらを見ている。
 信用は、されていないのだろう。別に構わないけれど。
 それに気分の悪くなるような、悪意に満ちてる視線なんてとっくに慣れた。