矢車の夢




 沖田さん、と呼ばれた男に手を差し出され、思わず捕まってしまえば、呆気なく立たされた。砂利道を踏みつけている足の裏がひりひりする。

「一体どうしたの」
「…はちみつ」
「え?」

 また、はちみつ色がこちらを覗き込む。
 日の光に照らされた髪は、どうやらただ色素が僅かに薄いだけで、ほとんど黒に近い。
 けれど、二つの瞳だけは、透き通るような、色だ。

 思い出すのは、兄の、瞳。

「…何でも、ないです。混乱しちゃって」
「そう?…あと局長が話したいことがあるらしいから、部屋に戻ってもらえる?」
「局長、ですか」
「そう、局長。この新撰組を束ねている、ね」

 新撰組。
 思いつく知識は、幕末に京都の治安維持として結成された組織だ。人斬り集団を揶揄されることも少なくは無く、時代の終わりとともに、散っていった人たち。
 せいぜい、そのくらい。
 幕末から明治にかけての偉人はいくらでも思いつくけれど、新撰組は彼らのようにたいした偉業も成し遂げることなく、時代に埋もれていったような、そんな認識。

 そんな新撰組を束ねた人間、確か名前は、近藤といった気がする。

「構いませんけど、…部屋の場所が分からない、です」
「それじゃあ一緒に行こうか」
「はい」