行き交う人々は、当然のように誰もが着物着ていた。腰には刀を差し、道の真ん中を歩くような人もいれば、重そうな荷物を抱えながらも笑顔で歩く人も居る。男の3歩後ろを歩く女も居れば、男を引きずっていくような女も居て。
ケータイを見ながら歩く学生も、忙しなく電話する社会人も。腕時計を確認して走るスーツの人も居なければ、だらだらと喋りながら歩く女子高生もいない。
誰もが前を向いて、歩いているような気がした。
道脇にあるのは多い茂る木々で、無機質にそびえる電柱なんて、ありもしない。
上を見上げれば、あるのは、大きく広がる空だけだ。
無機質な鈍いアルミの色したビルも、塗装がはげた街灯も、空の広さを邪魔するものなんて、何も無い。
「…っ」
今まで生きていたあの場所に、未練なんてものはない。
誰もが下を向いて、面倒ごとから目を背けて。自分のためだけに生きている、冷たい世界。
それを悪いとは言わない。
でも、誰かが助けて、と叫ぶ声を、イヤホンで耳をふさいで素通りしていく。そんな人間には、なりたくなかった。
