「……ねえ。俺さ、思ったんだけどー」
忽然と腕を引っ張られる。
想定外の出来事にとっさに対応ができるわけもなく、あっけなくバランスを崩して、その場でたたらを踏む。
図ったのか、という絶妙なタイミングで、腕に抱きすくめられる。
食器はどうしたの、と思いつつ眼前に迫る彼から目が離せない。
「ちょ……!」
「平気だって。落ち着いて? お前の料理はちゃーんと机に置いてきたからねえー」
そんなことはどーでもいーの、と言わんばかりの焦れた瞳。
根がはったかのように私を動けなくする。
さながら魔法のようだと思った。だとしたらなんて素敵な魔法なんだろう。解けないでいいよ、その魔法。
目線で“なによ”と先を促す。
「いやさ、大したことじゃないかもしれないけどさ。思ったわけですよ」
「なにを」
「いや? そのさあ。
──お前をお嫁さんにできる俺は幸せもんだなーって」
案外さらっと言われてしまったが、当の私がさらっと流せない。
思わず顔を真っ赤にさせて口をパクパクとさせていると。
「料理もいいけどこっちも美味そうだねえー」
パクリ。大きく開いた口が、私の手首に噛みついてきた。

