おかみを騙しているような罪悪感がマオリの心を暗くする。

血を流して倒れる男たちの中に佇む
月明かりに照らされたマオリを見たとすれば、
おかみとて悲鳴をあげるに違いない。

そう思うと心が痛む。
おかみの優しさを受け取ってはいけないのではないかと、マオリは思った。
 
マオリとおかみはお互いに無言のまま、
部屋の中の時が流れていくのを待っていた。
 
秋の虫の鳴く声が重なって、静寂の上を転がっていく。

 
京の町に噂がたった。
白い着物を着た辻斬りの噂だった。

そいつは空を飛び、
中には小柄な子天狗の顔をしていたというようなことさえも囁かれた。
 
必ず狙われるのは武士や浪人であったが、
京の町の人々は夜の外出を控えるようになった。
 
同時に有松に来る客も減った。
時代が不穏な空気を濃くするのが、
市井の人々にも感じ取れるほどになっていった。
 
客が少なくなったことを嘆く主人とおかみに申し訳ない思いを抱えながら、
マオリは有松での下働きに精を出した。
 
季節は秋から冬へと移り変わりつつあった。