フクロウの声

山崎に指示された橋の見えるところまで来て、
マオリは身をかがめた。

提灯の印で見分けろ、と山崎は言っていた。

夜は暮れ、
人通りのほとんどなくなった橋を、
目的の人物が通るのをマオリはひたすら待った。

涼しげな夜風が吹いているというのに、
マオリはじっとりと汗をかいていた。

今夜、マオリが刀を向ける相手の素性をマオリは知らない。
顔も名前も、なぜその男が殺されるのかも知らない。

じっとしていると頭の中ばかりが冴えてくるようで、
マオリは緊張する自分をどうにか落ち着かせようと、
何度も大きく呼吸をした。

やがて、橋を渡ってくる人の気配を感じた。

マオリはすっと立ち上がって、
物陰から橋の向こうへと目を凝らした。

いつのまにか、そばに座っていた乞食が口を開いた。

「マオリ、来るで。」
 
乞食は山崎であった。
頭にかぶった汚れた手ぬぐいの陰から鋭い眼光が光った。
 
マオリは一歩、物陰から出た。

半月に照らされて、白い着物が浮かび上がる。
 
耳を澄ませる。

橋を渡ってくるのは全部で三人。
提灯の明かりの橙色がゆらゆらと動いているのを確認できる。
 
マオリは目を細めた。

提灯の印を確認する。
山崎が絵に描いて示したものと、
ゆらゆらとこちらへ向かってくる提灯は同じものだった。